平野の伝承とくらし第6回(65 平野の「奥の細道」)

「平野の伝承とくらし」冊子 65 平野の「奥の細道」(P57-58)

65 平野の「奥の細道」

 ③ 古山 巌
 ④ ふ<しま奥の細道 横井 博(FC丁企業)
  芭蕉おくのほそ道(岩波文庫)
  おくのほそ道 全訳注 久富 哲雄(講談社学術文庫)

 元禄2年(1689年)5月2日(陽暦6月18日)、芭蕉は門人曾良を連れ、瀬ノ上から平野を
通り、医王寺に行き、継信・忠信の墓やその父、佐藤庄司基治一族の墓などを見て一句残し
ています。ではそのことを詳しく述べてみます。

 旅をすみかとした芭蕉が46歳の時、元禄2年、江戸から大垣まで146日掛けて600里
(2400km)にわたる長旅を楽しみました。
 3月27日(5月16日)江戸(東京)の深川を旅立つて、日光、那須を通り福島県の自河の関
からみちのく(東北地方)を北上、平泉から酒田へ出て越後路(山形・新潟・福井県)へ抜け、
岐阜の大垣まで本州の東半分を逆∪の字形に歩きました。福島県の自河(泊)に入つたのが
4月20日(6月7日)、自河の関を見て→須賀川(泊)→ 郡山(泊)→ 二本松黒塚→松川を経て
福島に泊まりました。
 福島を発つたのが5月2日(6月18日)、コースは以下の通りです。
  福島 → 岡部の渡し → 山口(信夫文智摺)→ 月の輪の渡し場 →
  瀬上 → 上高梨 →平 田平塚鯖野(医王寺)
  丸山(舘の山。大鳥城跡)→ 飯坂温泉(泊)     は平野地内

 その時の『奥の細道』の文を、今の文にわかりやすく直すと以下の通りです。

 月の輪の渡し(阿武隈川を舟で渡る)を越えて、瀬の上という宿場に出ました。佐藤庄治の
旧跡(大鳥城)は、左の山際1里半(6km)ばかりの所にあります。そこには飯塚の里、鯖野と聞
いたので、道を尋ねていくと、丸山(舘の山。大鳥城)という所まで来ました。ここが佐藤庄治
が音住んでいた館です。ふもとに大手門(城の正門)の跡などがありました。すぐそばの古寺
(医王寺)には、佐藤庄治一族の石碑が残つていました。中でも二人の嫁(継信・忠信の妻「若
桜」「楓」)のしるしはかわいそうな話です。かいがいしい振る舞いに涙を流しました。寺に入
って、お茶を頼むとここに義経の太刀・弁慶の背負った笈があり、寺の宝とされています。
 笈も太刀も五月に飾れ紙幟
 (今は5月節句、寺の宝の義経の太刀も、弁慶の笈も出して、紙幟と共に飾りましょう。)

 芭蕉は、元禄4年10月末に江戸に帰りますが、その後の2年余りを『奥の細道』の執筆に
あてたと考えられています。すでに旅の途中でできた俳句に新しい俳句を加え、これらを全
体的な構想を元に配列し、推敲を加えて『奥の細道』が完成したのです。
                                     (古山 巌)

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 ここからは、弊社の追加です。芭蕉の福島と飯坂に泊まったところの原文を載せさせていただきます。

浅香山・信夫の里

 等窮が宅を出でて五里ばかり、檜皮の宿を離れて、浅香山あり。道より近し。このあたり沼多し。かつみ刈るころもやや近うなれば、いづれの草を花がつみとはいふぞと、人々に尋ねはべれども、さらに知る人なし。沼を尋ね、人に問ひ、「かつみかつみ」と尋ね歩きて、日は山の端にかかりぬ。二本松より右に切れて、黒塚の岩屋一見し、福島に宿る。

 明くれば、しのぶもぢ摺りの石を尋ねて、信夫の里に行く。遥か山陰の小里に、石半ば土に埋もれてあり。里のわらべの来たりて教へける、「昔はこの山の上にはべりしを、往来の人の麦草を荒らしてこの石を試みはべるを憎みて、この谷に突き落とせば、石の面、下ざまに伏したり」といふ。さもあるべきことにや。  
    早苗とる手もとや昔しのぶ摺り

飯塚の里

  月の輪の渡しを越えて、瀬の上といふ宿に出づ。佐藤庄司が旧跡は、左の山際一里半ばかりにあり。飯塚の里鯖野と聞きて、尋ねたづね行くに、丸山といふに尋ねあたる。これ、庄司が旧館なり。麓に大手の跡など、人の教ふるにまかせて涙を落とし、またかたはらの古寺に一家の石碑を残す。中にも、ふたりの嫁がしるし、まづあはれなり。女なれどもかひがひしき名の世に聞こえつるものかなと、袂をぬらしぬ。堕涙の石碑も遠きにあらず。寺に入りて茶を乞へば、ここに義経の太刀・弁慶が笈をとどめて什物とす。  
     笈も太刀も五月に飾れ紙幟

 五月朔日のことなり。その夜、飯塚に泊まる。温泉あれば湯に入りて宿を借るに、土座に莚を敷きて、あやしき貧家なり。灯もなければ、囲炉裏の火かげに寝所を設けて臥す。夜に入りて雷鳴り、雨しきりに降りて、臥せる上より漏り、蚤・蚊にせせられて眠らず、持病さへおこりて、消え入るばかりになん。短夜の空もやうやう明くれば、また旅立ちぬ。なほ夜のなごり、心進まず。馬借りて桑折の駅に出づる。遥かなる行末をかかへて、かかる病おぼつかなしといへど、羇旅辺土の行脚、捨身無常の観念、道路に死なん、これ天の命なりと、気力いささかとり直し、道縦横に踏んで、伊達の大木戸を越す。



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